珈琲の味わいと焙煎技術
当店の珈琲豆は、通常の商品より「味わい期間」が長いと評判です。当店の珈琲豆は、焙煎直後は華やかな味わいを、焙煎後3~5日目以降に調和がとれてきて、落ち着いた味わいを楽しめます。その後も、その味わいが長く維持されていると評判です。それは、なぜでしょうか?
珈琲の味わいに関する影響因子としては、焙煎中に生じる煙に着目しなければいけません。この煙の存在が珈琲の味わいに影響を与えることは広く知られています。
焙煎した豆の表面には、焙煎中に生じた煙の一部が付着あるいは吸着されています。しかし、燃焼や焦げで生じた煙は、一般的に非常にラジカルな状態で拡散し、その後、安定な状態へと変化し続けます。珈琲豆に付いた煙成分も同様にラジカルな状態で化学的に不安定な成分が多量に含まれています。したがって、珈琲豆が煙を過剰に被ってしまうと、炒り上がった珈琲豆の品質を不安定にさせ、「味わい期間」に影響することが容易に推察できます。換言するならば、排気能力が小さい焙煎機を使用した場合、珈琲豆は煙を過剰に被った状態で焙煎され易くなり、結果的として、味、かおりの経時変化が大きい珈琲豆として仕上がってしまうのです。このように考えると、焙煎したての珈琲が一番おいしい・・・ということは、お客さまの嗜好に合えば問題ありませんが、何か作り手・売り手側に都合がいいようなお話にも思われてきます。
当店の珈琲豆は、焙煎時に生じる煙を豆に過剰に被らせず、さらに豆の芯までしっかりと水分を除くことに留意して作っています。そのために、当店の焙煎機(直火式)は、排気効率を大きくとれるように改作し、焙煎中の珈琲豆が過剰に煙を被らないように制御できるという特徴をもっています。化学的に不安定な成分が多い煙を制御して焙煎していることが、当店の珈琲豆が通常の商品より「味わい期間」が長くなるという特徴をもっている一因と思われます。
焙煎した豆に微量な水分が残っていると豆に含まれるエキスの変質を促進することが知られています。当店の焙煎機は、火力を高めて弱火から強火まで自在に制御可能であるために、芯まで均一に炒り上げながら極微量な水分をしっかりと取り除きます。そして、理想の細孔構造をもつふっくら珈琲豆に仕上げることができます。特に火力の弱い直火式焙煎機の場合には、表面付近だけ炒り終え易くなり、芯の部分まで水分をしっかりと除き切れません。この点も当店の珈琲豆が通常の商品より「味わい期間」が長くなるという特徴を持たせている一因と思われます。
珈琲豆は、焙煎(加熱)されることで内容成分が化学変化し、芳しい香りと味わいが生まれます。熱的な化学変化を受けた内容成分は、反応が完結し安定な化合物となったもの、中間生成物段階で化学反応的に不安定なものなどが混在しています。特に焙煎直後の珈琲豆は、未だ「化学的に不安定」で「ラジカルな状態」といえます。焙煎が終了しても炭酸ガスが出続けることがその現象を裏付ける一端でしょう。
この焙煎直後の段階の味わいとしては、とても華やかな香り立ちが特徴で、含まれている味、香りもお互いに主張し合い、活き活きとした印象を与えてくれます。「元気がいい!」「新鮮だ!」「あと味がさっぱり!」というイメージを喚起させる味わいをもっています。しかし、味、香りを化学成分として見た場合には、まだまだ落ち着きがない段階であるといえるのです。
珈琲豆は、時間の経過と共に、「まとまりがいい」「馴染みがいい」あるいは「調和(バランス)がとれている」などという表現で示されるような「落ち着いた深みのある味わい」になります。この時点に至って、ようやく珈琲豆が本来的にもつ味わいを楽しめるようになります。焙煎以降からこの段階までが「珈琲の味わい可能期間」です。
さらに時間が経過すると、珈琲豆に含まれる成分の酸化・変質が進んでしまい、香りが抜けてボケた味わいになります。ある人は飲み易くなると感じる人もいるかも知れませんが、通常、珈琲豆がもつ特徴がなくなり、くせや雑味(いやみ)が目立ってきます。そのような珈琲を飲むと胸やけ、胃もたれの原因にもなり、もはや嗜好飲料としては耐えられない段階です。
焙煎豆の変質に影響を与える要因は、通常の食品と同様に、「空気(酸素)」、「水分」および「光(紫外線)」の存在であり、さらに保存中の「温度」が変質の進み具合に影響を与えます。したがって、珈琲豆を保存する場合には、「密封」、「防湿」および「遮光」という対策が必要で、低温条件に維持する温度管理も重要なポイントとなります。したがって、珈琲豆は、焙煎により始めから水分がしっかりと取り除かれていないと変質が早まることになります。珈琲豆に最初から含まれている極微量の水分も無視できません。
珈琲豆の変質は内容成分が化学反応で変化することですから、珈琲豆を「空気(酸素)と光(紫外線)から遮断する」、「焙煎で水分をしっかり除き、保存中には吸湿しないようにする」ということが大切です。また、それら反応の促進要因である保存中の「温度」をしっかりと管理することも重要なポイントです。